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英語で賢くなるサプリ: 日本語
最近の新聞記事から・その2
「毎日新聞」(08年11月13日夕刊)、「火を秘めた浅間の風に生きめやも」より。
「風立ちぬ」の序章は、ポール・ヴァレリーの詩の一節から始まる。辰雄は「風立ちぬ、いざ生きめやも」(風が吹いてきた、さあ生きていかなければ)と訳した。今読み返すと、生への強い意志を感じる。)
下線部は、その前の堀辰雄の訳の現代語訳らしいが、この記事の筆者が付けたものであろうか。いずれにせよ、堀辰雄の訳自体が誤訳であることは、知る人ぞ知る事実である。詳しくは下記を参照のこと。
「いざ生きめやも」(021)(05.07.10)
「いざ生きめやも・補説」(022)(05.07・12)
日本語が専門でない僕のいうことは信じられないという方は、大野晋・丸谷才一対談『日本語で一番大事なもの』(中央公論社)74-75頁を見て下さい。
追記: 「岩波古語辞典」は、助詞「やも」について次のように解説している。
「や」に終助詞「も」の添った形で、活用形の已然形を承けて反語に使う。多くは奈良時代に使われ、平安時代になると「やは」がこれに代って使われた。文末の「も」が用いられなくなったので「やも」が衰亡し、「やは」が代ったものである。(引用終わり)
挑戦することを行うことです大海人皇子や柿本人麻呂の歌にもあるのだから、奈良時代以前も含まれるはずであるが、とにかく、平安時代に入って使われなくなったという。近現代の歌人が(021に引用した半田良平のように)この「やも」を使うのは、この反語表現が持つ万葉の調べをまねびたいと思うからであろう。しかし、文法を正しくしないと調べが出るはずがない。堀辰雄は、万葉の文法に正しく倣うか、それとも、自分が得意とする現代語に翻訳すべきであったのである。
追記2(08.12.16):「めやも」と結ぶ短歌を、見つけ次第、ここに記していく。
鞆の浦の磯のむろの木見むごとに相見し妹(いも)は忘らえめやも
大伴旅人([万葉集]巻第三、450)
鞆の浦の磯にある榁の木、それは、大宰府に赴任する旅に妻も同行し、この木を共に見たのであったが、今、任を終えての帰途に、同じ木を見て妻を偲んでいる。妻は、大宰府で帰らぬ人となったのだ。この木を、これからも見ることがあれば、その度ごとに同じように、きっと妻を思い出すことであろう。(忘れられるということがあるだろうか、いやない。)
「やも」は反語の助詞として使われている。
ささなみの志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも
柿本人麻呂
むらさきの匂へる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも
大海人皇子
は「いざ生きめやも」(021)で引用した。
追記3(09.02.02)
ひたすらに行けよ行けよとゆく水のをしふるものを行かざらめやは
若山貴志子「筑紫野」(昭和5年)
(大岡信「新折々のうた6」より引用)
貴志子は牧水の妻。「は」は「も」と同じ、終助詞。「行かない」でなく「行く」と決意を示したもの。「ざら」があるから、その意味になる。
追記4(09.02.04)
秋山に霜降り覆ひ木の葉散り年は行くとも我忘れめや
柿本人麻呂歌集(「万葉集」巻第十、2247)
「忘れめや」は「忘れるだろうか、いや忘れない」。末尾に終助詞がないが、字数の関係からであろう。
追記5(09.02.10)
あが母の吾(あ)を生ましけむうらわかきかなしき力おもはざらめや
斉藤茂吉「あらたま」
(大岡信「新折々のうた9」より引用)
「思わないことがあろうか、いや思うことである」の意味。上の歌と同じく、終助詞の無い形。
追記6 (09.03.06)
しきたへの袖交へし君玉垂の越智野に過ぎぬまたも逢はめやも
柿本人麻呂(「万葉集」巻第二、195)
挽歌。もう逢うことはないと悲しむ。
追記7 (09.03.16)
わが眼もてわが心もてよしと定め選びしものを遂げざらめやも
植松寿樹「光化門」(大岡信「第五折々のうた」より引用)
「自分の選んだ婚約者であるから、添い遂げないことがあるだろうか、いや無い」と決意を述べている。
追記8 (09.03.20)
奥山の岩垣沼に木葉落ちてしづめる心人しるらめや
源実朝「金槐集」(大岡信「第五折々のうた」より引用)
「その心を人は知るだろうか、いや知らない」
我が盛りいたくくたちぬ雲に飛ぶ薬食むともまたをちめやも
大伴旅人(「万葉集」巻第五、851)
「くたちぬ」は「盛りを過ぎてしまった」、「をつ」は「若返る」
「年を取ってしまった自分、妙薬を飲んだからといって若返ることがあるだろうか、そんなことは無いなあ」
春雨に衣はいたく通らめや七日し降らば七日来じとや
よみ人しらず(「万葉集」巻十、1921)
「春雨が衣にひどくしみ通ったりするものでしょうか、そんなことはないはずです」と通って来ない恋人をうらむ歌。
「めやも」「めやは」「めや」の反語用法例のコレクションはもう充分であると思うので、これで終了する。
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